はじめに

ソシャゲをある程度プレイしている方ならガチャで理不尽な目にあった経験はあるでしょう。よほど問い合わせが多かったのか消費者庁が確率の授業をする羽目になったりしていますが、こういった説明をされてもなお腑に落ちないという人も多いのではないのでしょうか。

こういった現象は認知バイアスによって説明できます。認知バイアスは人が事象を解釈するときに持つ歪みのことです。この記事ではガチャで感じやすい理不尽について、認知バイアスを使った説明を行います。こういった認知バイアスを知っていると、自分の状況を客観的に判断して、ガチャを引くかどうかや撤退するかどうかの意思決定をより合理的にできます。

ガチャの高レアが出ない

ソシャゲをプレイしている人の多くはガチャの高レア排出率が表記されている確率より低いように感じているのではないでしょうか。確かに統計を取ってみると正しいのだけれど、どうもちゃんと出ているようには思えない……。

これはプロスペクト理論の確率加重関数で説明ができます。

プロスペクト理論というのは雑に説明すると「人間の感じる価値には偏りがある」というもので、確率加重関数は人間の感じる確率の歪みを表します。確率加重関数はこんな感じの関数です。

このグラフを見ると「低い確率は過大評価され、高い確率は過小評価される」ことがわかります。具体的な値についてはいろんな理論があるので一概には言えませんが、主なソシャゲの高レア排出率である10%未満の確率はかなり過大評価されるのです。

そろそろ当たらないとおかしい

何百連も回して目当ての高レアが出ないと、もうすぐ当たるのではないかと期待してずるずると引き続けてしまうことはありませんか?

これはギャンブラーの誤謬と呼ばれる認知バイアスによるものです。ギャンブラーの誤謬は、ある事象が続けて起きた後はその事象が起きにくくなる(例えばコイントスで10連続で表が出たら次は裏が出やすくなる)という推論のことです。

実際にはガチャはランダムかつ独立な試行なので、このような推論は間違っています。つまり、どれだけ外れが続いたところで出やすくなるなんてことはないのです。

出るモードと出ないモードがある

確かにトータルで見たら表記されている確率通りかもしれないけど、数百連の間全くでなかったり急にいっぱい出たりして偏りが激しい、射幸心をあおるために出るモードと出ないモードを切り替えているのでは?という意見も見かけることがあります。

こういった認知を生み出しているのはクラスター錯覚です。クラスター錯覚はランダムな分布の中にできるかたまり(クラスター)を見て偏りや法則があると感じてしまう認知バイアスです。

例として、正方形の中にランダムに点を打つ様子を見てみましょう。

点が集まっている領域や空白の領域があるように感じられることでしょう。これを見ると、むしろ点が「平均的に」分布している領域の方が少ないことがわかります。ランダムな分布には必然的に偏りが生まれるのに、人はそれを見てランダムでないように感じてしまうのです。

今は調子いいから引ける

先ほどのクラスター錯覚から出やすいときと出にくいときがあると錯覚し、高レアが出た後は調子がいいのでまた高レアが引けると結論付ける場合があります。これはギャンブラーの誤謬とは逆の働きの認知バイアスですが、こちらにもホットハンドの誤謬という名前が付いています。ガチャをたくさん引いてきた人ほどホットハンドの誤謬に陥りやすいです。

ここまで来たら撤退なんてできない

外れが続くと意地になって無理に課金してでも当たりが出るまで回してしまうことはありませんか?ここで撤退したら今までの課金が無駄になると思っていませんか?それはサンクコストバイアス、あるいはコンコルド効果と呼ばれる認知バイアスです。

今までの課金はその後当たりが出ようが出まいがもう取り戻すことができません。つまり、さらに課金するかどうかの意思決定に今までいくら課金したかは全く関係ありません。しかし、人はそれまでの課金額に気を取られて、ここでやめるのはもったいないと考えてしまうのです(実際にはお金はガチャに突っ込んで爆死した時点で無駄になっています)。

有償石だと排出率が低い

無償石だとすぐに高レアが出るのに、有償石だと全然高レアが出ない。課金させるために有償石からは出にくくしているのでは?という疑いも見かけることがあります。このような錯覚をしてしまう理由としてメンタルアカウンティングがあります。

メンタルアカウンティングはお金に対して入手方法や使いみちによって「色」を付けてしまい、別の勘定として扱う心の動きのことです。例えばギャンブルで手に入れたお金は、働いて手にしたお金より浪費してしまいがちです。また、普段10円でも安い食材を買うくせにソシャゲに数万円をポンポン課金してしまうのもメンタルアカウンティングの影響です。

このため、特に微課金の人などは無償石は気兼ねなく使ってしまうので労せず高レアが出るような印象を感じ、有償石に対しては特別な価値を感じるのでせっかく課金したのに出ないという印象を持ってしまうのです。

みんな神引きしてるし自分もいける

Twitterを見るとみんな2枚抜きしたり呼符で引いたりしているし、これは自分もサクッと引けるのでは……?

これは説明するまでもないかもしれませんが、生存者バイアスです。引きがよかった人はツイートし、引きが良くなかった人はツイートしないので出やすいかのように見えるだけです。

大成功教はガチ

強化で大成功が出た後に回すと当たる、フレンドポイント召喚で星3サーヴァントが出た後に回すと当たる、などなど、さまざまなガチャ宗教がまことしやかにささやかれています。

これは錯誤相関という認知バイアスです。大成功や高レア排出など、確率の低い事象が起きるとそれが強く印象に残るので関係があるように思い込んでしまうのです。

プログラマーのはしくれとして付記しておくと、疑似乱数の性質によって偏りが生じているということもありえないと断言できます。

おわりに

ガチャを引くときに陥りやすい認知バイアスについて見てきました。これらの認知バイアスは、確率論などについて勉強してきた人であっても陥ることがあります。バイアスだと分かったうえでネタとして楽しんでいる方もいますが、気付かずにハマってしまうと思わぬ出費につながってしまいます。

こうした事態を避けるためには、

  • ガチャの排出率を見るだけでなく、確率分布を確認する
  • 追い課金する前に落ち着いて現状を確認し、バイアスを意識する
  • ゲームの予算を設定し、これを必ず守る

といった対策が有効です。

これらの対策を講じた結果、私はいつも通り爆死しました。

それでは皆様、よき爆死ライフを。

参考文献

Category:認知バイアス - Wikipedia